特許要件(記載要件について)
前回の記事では、発明が特許になるための以下2つの要件のうち、
特許性について説明しました。
1.特許性:(1)新しくて(2)スゴいか。
2.記載要件:(1)明らかで(2)つくれて(3)スゴいと分かるか。
今回は、2.記載要件について説明します。
記載要件とは
特許発明は、どのようなものか明らかで、それをつくれたり、
スゴいことが分かるように書く必要があります。
特許は、権利書及び技術文献としての機能を求められるためです。
(1)明らかか: 発明の意味がハッキリ分かるか、誤解しないか。
(2)つくれるか:その分野の知識を持っている人がつくれるか 。
(3)スゴいと分かるか:本当にスゴいことの根拠や証拠があるか。
以下、それぞれ具体的にみていきましょう。
※発明はあくまで仮ですので、あしからず。
(1)明らかか(明確性要件)
まずは(1)明らかかどうかです。
明らか、というのは、正確に書かれていて誤解されないという意味です。
特許発明は権利として保護されますので、発明があいまいに書かれていたら
どこまで保護されるのかよく分らず、みんな困ります。
また、発明の意味が分からなかったら、利用できず社会のためにもなりません。
なので、特許としての発明は、「明らか」に書く必要があります。
例えば「ドロッとしたものが少しのってるハンバーグ」という発明を考えます。
「ドロッとしたもの」と言われても、何のことか分かりませんし、
「少し」と言われても、どれくらいのせればその発明になるのか分かりません。
「ゼリーが10~30gのってるハンバーグ」のように明らかに書く必要があります。
※特許法における明確性(36条6項2号)に該当する要件です。
(2)つくれるか(実施可能要件)
次に、発明が(2)つくれるか(又は、つかえるか)どうかです。
特許発明は、利用できないといけないので、つくれるように書く必要があります。
誰もつくれないものは、産業の発達に寄与できませんよね。
例えば、発明「ゼリーのせハンバーグ」の場合、ゼリーとハンバーグそれぞれのつくりかたや、ハンバーグへのゼリーののせ方も分かるように書かないといけません。
分かりやすい方が誤解されにくいですし、技術文献として利用しやすいので、
上に示すように絵(図面)で示すことも多いです。
※特許法における実施可能要件(36条4項1号)に該当する要件です。
(3)スゴいと分かるか(サポート要件)
最後は、(3)スゴいことが分かるように書いているか、です。
特許性の要件で、発明が「スゴい」ことが要求されますが、
本当に「スゴい」のか、根拠をもって書く必要があります。
発明者が自分だけスゴいと思っているものや、スゴくないものにまで権利を与える訳にはいかないためです。
例えば「ゼリーのせハンバーグ」という発明において、
「今までのハンバーグよりうまい」ことがスゴい場合を考えます。
ゼリーにも色々種類がありますので、少なくとも何種類かのゼリーで
本当においしいかどうかの根拠を書く必要がありそうです。
つまり「あまいゼリー→うま!」、「あまずっぱいゼリー→めちゃうま!」など、
実際に食べておいしかったことを何らかの方法で評価した結果を書けばよいです。
実際に食べなくても理屈で説明できる場合は、その理屈だけ書いてもOKです。
一方で、「にがいゼリー→まずっ!」となる場合があるかもしれません。
この場合、にがいゼリーはスゴくないので、特許にはなりません。
通常、このような不利な情報は出願書類には敢えて書かないのですが、
にがいゼリーは権利として取らなくてよかったり、
新しくないことが明らかな場合は、それも書いておくこともあります。
(その場合、発明を「にがいゼリー以外のゼリーのせハンバーグ」にします)
※特許法におけるサポート要件(36条6項1号)に該当する要件です。
特許要件がOKでも、記載要件がNGな例
上記の通り、特許要件がOKでも、記載要件がNGであれば、特許にはなりません。
極端な例ですが、例えば「タイムマシン」等が該当します。
発明は書面上で表現できれば、特許として出願すること自体はできますので、
タイムマシンを空想して特許出願することは可能です。
タイムマシンは、現時点では(実際には)無いので新しいです。
また、その機能として「過去未来を自由に行き来できる」ので非常にスゴいです。
よって、特許性は十分に満たしていそうです。
一方で、現代の技術では、残念ながらタイムマシンはつくることができません。
それらしく書けるかもしれませんが、結局意味不明になる気がします。
つまり、つくれるか分からず、実施可能要件を満たすことができません。
百歩譲って、つくれそうと認められても、本当にスゴい根拠を示す必要があります。
発明者自身が恐竜やドラえもんと一緒に写った写真を添付すればよいでしょうか?
そんな写真は編集でいくらでもつくれますので特許庁は信じてくれません。
(審査官を実際に未来に連れて行かないと、信じてくれそうにないですね。)
どうやら、スゴいと分かってもらえず、サポート要件も満たせなさそうです。
ちなみに、実際にタイムマシンを意図した発明は、過去に何件か出願されています。
例えば、「吉野・タイム・マシン・システム(特開2006-314185)」があります。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p0200
「無限も含めた次元空間でのコミュニケーションをとる、吉野・タイム・マシン・システム」と発明が規定されていますが、かなりぶっ飛んでいておもしろいです。
本当にそのようなコミュニケーションができるタイムマシンがあればスゴいことですが、やはり記載要件違反で拒絶になっています。
この発明を使って、審査官と無限のコミュニケーションが取ったらよかったのに。
さいごに
発明が特許となるために必要な要件の一つ;記載要件について説明しました。
明らかに、つくれるように、スゴいことが分かるように書くことは難しいですが、権利として範囲が明らかに分かるように、また発明をさらに進化させるために重要な要件です。
私自身も空想でスゴい発明を色々とつくりだすことは得意ですが、
やっぱり空想だけだと、特につくりかたを書くことが難しいですね。
ただ、実際に空想で特許をいっぱい取って大金持ちになった人もいますし、
現実の発明につながることも多いので、色々と考えてみることは大切です。
いつかタイムマシンを実現して、特許を取る人が現れるといいですね。
(でも未来人に会ったこと無いし、時間を超える技術は無理なのかな)