特許業務における発明発掘とクレーム作成の考え方

発明発掘とクレームの考え方

企業の研究開発部では、従来技術の課題を解決すべく、新たな創作や技術の改良を日々実施しています。
特許業務における発明発掘は、それらの創作や改良を、発明として言語化していく作業です。
そして、その言語化された発明が、特許請求の範囲(=クレーム)となります。

クレームは発明に対して「保護を求める権利範囲」を定める基礎となるもの、要するにクレームに書いている範囲を独占させろ、というもので特許出願書類の中でも最も重要な書類です。

この作業にあたっては、以下のような点を考慮しつつ進める必要があります。
今回は、例を挙げつつ発明発掘~クレーム作成の考え方を説明します。

  1. 特許法に規定された要件を満たすこと(特に、特許要件と記載要件)
  2. クレームの範囲を先行技術に対して出来るだけ広くすること

1.特許法に規定された要件を満たすこと

クレームの作成にあたっては、特に①特許要件と②記載要件に留意する必要があります。
特許は出願しただけでは権利にならず、特許庁の審査をクリアして初めて権利として保護されます。
特許要件と記載要件は、その審査にあたって越えなければならないハードルのことです。

①特許要件

特許要件とは、以下の5つの要件を指しますが、その中でも特に重要なものが新規性と進歩性です。

新規性とは「客観的に新しいこと」です。
特許権は、新しい発明を世に公開する代償として与えられるものであり、それを規定した要件です。

進歩性とは「当業者が容易に相当できない困難性」です。
要するに、今までよりもスゴイということです。
新しくてもスゴくない発明まで権利化してしまうと、特許権が乱立してしまい事業が不自由になってしまいます。
特許法の目的は「産業の発達に寄与すること」ですから、そのようなことを防止するための要件です。

つまり、特許要件=今までよりも新しくて、その新しい部分がスゴイことです。

<特許要件5つ>

  • 新規性(特許法29条1項)
  • 進歩性(特許法29条2項)
  • 拡大先願(特許法29条の2) ⇒未公開のものなので基本的に把握(考慮)できない
  • 先願(特許法39条)⇒同上
  • 公序良俗違反でないこと(特許法32条) ⇒紙幣偽造装置等が該当するが、通常は該当しない

②記載要件

クレームに関連する記載要件は、以下3つです。
形式的な色合いが強い要件ですので、今回の例では詳しい説明は省略します。

<クレームに関する記載要件>

  • サポート要件(特許法36条6項1号) ⇒クレームの範囲全域に渡ってその効果が奏されることが明細書から分かるか(化学の分野では特に重要)
  • 明確性要件(特許法36条6項2号) ⇒クレーム記載の用語等が一義的となっているか
  • 簡潔性要件(特許法36条6項3号) ⇒クレームが冗長でなく簡潔に書かれているか

2.クレームの範囲を先行技術に対して出来るだけ広くすること

前述した通り、クレームは特許権の範囲を定めるものなので、その価値を最大化するために適切な範囲設定とすることが重要です。

価値を高めるためには、基本的にはクレームの範囲を出来るだけ広く設定することが重量です。
一方で、クレームの範囲を広げすぎると、新規性や進歩性を主張できず権利化できなくなってしまう場合があります。

つまり、特許の価値を高めるためには、クレームの範囲を先行技術に対して出来るだけ広くする必要があります。

クレームの範囲を広げるためには以下の2点を検討します。

  • クレームに記載する構成要件を出来るだけ少なくする
  • クレームに記載する構成要件をより上位概念で表現する

上記2点を考慮するためには、発明の構成及び効果を把握した上で発明の本質を見極める必要があります。
発明の本質が分かれば、不要な要件は削れますし、広い概念で表現することも可能です。

以下、鉛筆を例としてみていきましょう。

発明発掘とクレーム作成の例;転がらない鉛筆

以下、転がらない鉛筆を例として、発明の本質把握、それによるより広い範囲での言語化(クレーム化)を説明します。

(1)構成と効果の違いを把握する

まずは、従来技術と自分の発明における構成と効果の違いを把握します。

具体的な発明を比較しつつ、構成と効果をみてみます。

・構成はどこが違うか(どこが新しいか)
⇒従来技術:丸い ⇔ 自分の発明:六角形 

・効果はあるか(何がスゴイか)
⇒従来技術は転がってしまうが、自分の発明は転がらない

つまり、自分の発明は(断面形状が)六角形の構成で、その構成によって転がらない効果があることが分かりました。

(2)メカニズムを考えて発明を広げる

次に、把握した構成と効果の因果関係(=メカニズム)、つまり発明の本質を検討します。

六角形だとなぜ転がらないのか
⇒(角が)ひっかかるから

つまり、本発明の本質は、ひっかかりを有する鉛筆といえます。

発明を広げるために、この本質を考慮しつつ、種々の態様を考えてみます。
ひっかかりをつくるには、①断面形状と②長手方向形状の双方でいけそうです。

①断面形状

ひっかかればよいので、六角形に限られず三角形や四角形等の「多角形」でよさそうです。
また、角でなくて丸い形状でも、少なくとも一部が「凸になっていても」よさそうです。

②長手方向形状

長手方向でも、直線ではなく「湾曲している」とひっかかりそうです。
図のように一周させるとより転がらなくなりそうです(ただ、持ち辛そうですが)。

(3)言語化(クレーム化)する

検討した発明を言語化していきます。
ここで考慮することは①要件を少なく、②上位概念で表現することです。

自分の発明である鉛筆は、木の外郭の中心に黒鉛の芯を詰めて、外殻を所定の形状に削ったものです。
ここで、必ずしも外殻=木、芯=黒鉛でなくてもよいので、これは書かなくてよさそうです。
つまり、最低限の要件は「鉛筆と所定形状」に絞れそうです。これで①要件を少なくできました。

②上位概念での表現は、既に(2)で検討していますので、断面形状と長手方向形状に分けて言語化してみます。

①断面形状

断面形状が多角形又は凸部を有する鉛筆

②長手方向形状

長手方向形状(の少なくとも一部)が湾曲している鉛筆

いかがでしょう。六角形の鉛筆から、大分広がっていることが分かると思います。

まとめ

今回は発明発掘からクレーム作成の考え方を書きました。

前述の各項目をさらにまとめたポイントは、以下の通りです。

  • 新しくてスゴイ部分の本質を見極める
  • 本質に基づいて多様な態様を考える
  • 態様を一まとめの概念として(無駄な要件を省きつつ)表現する

物事を狭く見たり、広く見たり、見方を変えてみたりと、柔軟な思考が必要です。

この作業はパズルゲームのような面白さがあるので、発明発掘・クレーム作成は特許業務の醍醐味の一つだと考えています。

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