知財転職記 ③企業内弁理士時代~成長と葛藤の末の決心~

企業知財部の葛藤

約2年の特許事務所勤務から、企業知財部に弁理士として転職しました(~現在に至る)

今回は、特許事務所からの転職~現職である企業内弁理士の職務概要(以下6.の期間)についてです。

※前回の特許事務所時代については、以下リンクの記事に書いていますので、もしよかったらご覧いただければ幸いです。

知財転職記 ②特許事務所時代~根性と神風の弁理士試験~ – ちざいのすすめ (suepat.com)

<私の経歴概要>

  1. 大学院卒業後、新卒で大手の化学/繊維メーカーに開発職(技術者)として入社
  2. 色々と経験を積む中で自身の生業を知財としたいと考えるようになる
  3. 知財部への異動希望を出したが叶わず30歳を超える
  4. 一度きりの人生トライしてみたいとの想いから一念発起して特許事務所に転職
  5. 特許事務所で知財業務を学びつつ弁理士試験勉強
  6. 運よく1年程で資格取得できたため念願であった企業知財へ転職、現在に至る(新卒入社の会社とは別会社)

特許事務所から企業知財部への転職

特許事務所における業務と苦悩

<特許事務所での業務>

前職の特許事務所では業務の9割以上が明細書作成及び指令応答業務でした。

明細書の内容については、平均して週に1,2回はクライアントである企業の知財部や研究開発の方と打合せして方針を決めます。

その後はひたすら明細書を書いて、案文のやり取りを何度かした後に出願指示を頂き庁提出します。

その間をぬって、庁指令に対する応答案を考えて、クライアントに提案して方針を決めます。

ほぼデスクワークで頭を使うので大変疲れる業務ではありますが、知財の本質的な業務なので、何十何百もの明細書を書いたり読んだりすることで力は付きました。

直属の上司であった弁理士先生は真のプロフェッショナルであり、本当に多くのことを教えて頂きました。今でも感謝しています。

<特許事務所での苦悩>

そのような業務を約1年半程こなして慣れてきた頃、「これって完全に企業の下請けじゃないか?」という疑念が生じてきました。

(特許事務所の業務は、法的には「下請け(請負)」ではなく「委任」です。念のため)

クライアントとの打合せでは、ある程度こちらの提案を受け入れて頂くことはあるのですが、それは知財の観点、特に特許庁対応における実務上の点からのアドバイスが主であり、当然発明や事業に対する提案などは基本的にはできません

元々開発者でモノづくりの全般に関わってきたこともあり、略明細書作成や指令応答だけの狭い範囲の業務だけではなく、開発者としての経験を活かしつつ、知財を通してモノづくり全般に関わりたいという願望が湧き上がってきました。

企業の知財部だと、その願望が叶えられるのでは?

企業知財部への転職

そのような願望が生じた時にちょうど弁理士登録したこともあり、取り敢えず自身のニーズはどの程度あるのかを確認するつもりだけでリクルートエージェントに出向き、担当の方から求人情報の提示+アドバイスを受けました。

ちなみに、勤務している特許事務所と同じオフィスビルに入っているリクルートだったので、少しヒヤヒヤしていました。

提示の求人情報で、まず目を引いたのが想定年収額であり、現在の事務所と比べて1.5倍超ある企業が複数ありました。

以前勤めていたメーカーで継続勤務していた場合の年収と同じくらいなので、当たり前といえば当たり前なのですが、子供も生まれていたのでこれはかなり魅力的な条件でした。

目的を見失ってそうですが、この時点でかなり転職側に気持ちが傾きました。

提示頂いた企業の中で、自身の専門との合致、大阪勤務可能なところ、また年収が高めである企業が特に気になり、選考を受けてみることにしました。

エントリーシートの提出、及びウェブテスト受験後に面接を一回実施頂いた後、すぐに合格通知を頂きました。

事前に面接は複数回あると聞いていたのですが、一次面接の時点で採用権限のある方が参加されていたとのことでした。

あまりにとんとん拍子に事が運んだことに少し啞然としながら、企業知財部への転職を決めました。

この企業、実は勤務していた特許事務所のクライアントの一つであったので、退職報告の際は少し気まずかったのを覚えています。

それでも、上司の方々は気持ち良く送り出して頂いたので感謝しています。今では、自身がクライアントとして一部案件をお願いしています。

企業内弁理士時代

※(注)以下の記載は、あくまで私自身の経験に基づくものですので、一般論とは異なる場合がございます。

【成長】企業知財部勤務のメリット

さて、企業知財部で勤務を始めるのですが、まずは知財部内や関係する研究部署等との人脈づくりをしないといけないので、結構大変です。

毎日毎日別の事業所/部署を回って挨拶をしつつ、顔と名前を覚えてもらいました。(最初は飲み会も多いので、キツかった。。)

企業知財部では、発明発掘、出願業務、調査戦略業務、渉外業務と幅広く関われることがメリットです。

また、デスクワークに加えてフィールドワークもほどほどにあったり、関係各所との適度な量でコミュニケーションをとれるので、ずっと明細書を書いている状況よりはバランスが良く、ある意味ストレスは溜まりにくいです。

私の場合は、担当する技術分野の幅も広く、多様な国への外国出願もあったので色々な経験を積むことができました。

また、複数の事務所の先生と関わり合いが持てますし、様々な分野の先生の対応が見れるということは本当に貴重な体験でした。(中には、意に反した明細書の修正があると怒りだしたりする、とんでもなくヤバい先生もいますが)

調査業務では最新の解析ツールを用いて、担当分野の特許調査、それを用いた発明発掘や戦略提案を実施できることは、自身の目的に叶う業務であり、特に良い経験になりました。

様々な専門家や技術との関わり、最新ツールを用いた解析、外国含めた特許プラクティス/言語の学習等、浅く広くではありますが、若い方はまず企業知財を経験することがお勧めです。

※企業知財部の各業務の概要については、以下リンクにまとめていますので、もしよかったらご覧ください。

知財関連記 – ちざいのすすめ (suepat.com)

【葛藤】企業知財部勤務における苦悩

企業知財部の苦しい点を一言でいうと「板挟み」です。

<研究と事業部との板挟み>

前提として、知財部の役割はあくまで事業のサポートですので、研究や事業部の方針には逆らえません。

確かに上述の通りモノづくり全般に関わることはできるのですが、事業戦略や研究開発に対して実質的な影響を与えることは非常に少ないです。

自分自身が思い描く戦略や、出願内容を実践できるわけではなく、常に複数間の狭間に置かれてその妥協点を見つけていくような役割です。

専門性よりも調整能力/管理能力が問われると言った方がいいかもしれません。

特に日本の大企業では、(ある意味一般的なことかもしれませんが)部門間のセクショナリズムが顕在化しているので、この傾向がより顕著になります。

そもそも、他部署からの提案を素直に受け入れて実施するような組織の方が珍しいです。

提案と実施する主体は同じにすべきであり、これは組織的な問題なのかもしれません。

<研究と特許事務所との板挟み>

出願する際は基本的に、まず研究からクレーム案と根拠となるデータ等を頂き、社内で摺り合わせをして特許事務所に依頼をかけます。

研究は自身の発明(クレーム案)に情熱とプライドを持っているので、基本的にクレームの内容をいじられたくありません。

それでも知財部として、より有効な出願とすべく提案をしていかないといけないですし、クレームの内容を担保するようにより多くのデータを要求しないいといけません。聞き入れてもらうためには、特に日々のコミュニケーションと信頼を得ておく必要があり、かなり気を使います

このやり取りを経て特許事務所に依頼するのですが、事務所からクレームの修正提案が出たり、「発明者と直接話させてくれ」と言われたりします

ただ、事務所の先生の提案が有効な場合も多いですし、そうでなくとも無下にはできないので、時には再調整が必要となります。

専門的な知識でさえ特許事務所に確認すれば良いので、正直言って企業内弁理士に資格が必要かと言われればそうではありません。

ただのメッセンジャーとなることも多々あり、正直存在意義を自身に問うこともあります。

そういう意味では、プロフェッショナルとして仕事がしたいと思い描いていた私のキャリアとは隔たりがあり、またしても葛藤が生まれ始めています。

ここで一点、確かに「発明者と直接話す」方が話は早いのですが、企業知財部に対してこの発言はかなり失礼ですし禁句です。
(まともな知財部担当であれば)研究から最大限の情報を引き出す努力は既にしており、実際これを言われた時はかなり腹が立ちます。

【決心】成長と葛藤の狭間で…

私自身のビジョン(やりたいこと)は明白であり、弁理士としての専門性×モノづくり全般=経営です。

色々と自身で調べたりセミナーを受けていると、スタートアップや中小企業向けの知財コンサルティングのニーズがあり、実際に実践されている先生方がいることを知りました。

諸事情により地元へのUターンが必要なことも相まって、地元の中小企業にサービスができないかということを検討するようになりました。

そんな訳で、現在勤めている企業には、既に来年度初旬に退職することは伝えており、絶賛地元移住+独立開業準備中です。

全て自分の思い通りの仕事などは在りはしないことは重々理解しているのですが、まだまだトライ&エラーは続けていきたいです。

地元での開業編に続く… (現在進行中です。以下リンクに進捗をアップしていく予定です)

開業/経営 – ちざいのすすめ (suepat.com)

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