知財の業務:特許事務所及び企業知財部の各業務とその違い、向き不向きについて

知財業務

知財に接したことの無い方にとっては、知財の業務はイメージがつきづらいと思います。
私は特許事務所と企業知財部の両方の経験がありますので、それぞれの業務がどのようなものか、その違いは何なのかを書きました。
(自身の経験上、主に特許業務をメインとさせて頂きます)

投稿者の経歴概要

まず私自身の経歴を簡単に以下にご紹介します。(詳細は、また別の記事に書きたいと思います。)

・大学院卒業後、新卒で大手の繊維メーカーに開発職として入社
・色々と経験を積む中で自身の生業を知財としたいと考えるようになる
・知財部への異動希望を出したが叶わず30歳を超える
・一度きりの人生トライしてみたいとの想いから一念発起して特許事務所に転職
・特許事務所で知財業務を学びつつ弁理士試験勉強
・運よく1年程で資格取得できたため念願であった企業知財へ転職、現在に至る(新卒入社の会社とは別会社)

まずは結論

最初に結論を書きます。読むのが面倒くさい方は、以下の情報だけでも知って頂ければ幸いです。

特許事務所:狭く深く。出願明細書、拒絶応答等作成の特化型。一人で黙々と考えたり、書類作成したり、代理人としての知財専門家を極めたい人向き。

企業知財部:広く浅く。知財関連業務全般のパイプ役。関係部署や特許事務所とのコミュニケーションも多い。知財全般を学びつつ関係各所と関わりたい人向け。視野を広く持てて取捨選択できる点から、若いうちはこちらの経験を積んだ方がいいかも。

特許事務所員の一日

仕事の概要と向き不向き

一般的な特許事務所員の業務は、9割方出願書類と応答書類の作成です。
パソコンの画面と向かい合って、発明の構成を言語化して落とし込んだり、拒絶理由に対してどう論理的に返答するかを考えてながら文書を書きます。

私が勤務していた事務所では、技術担当(特許書類作成等)、事務者(書類の庁提出手続き等)に分かれていましたので、特に書類作成業務に集中していましたが、事務所によっては両方の業務をこなす必要もあるようです。

余談ですが、特許事務所の事務担当の方は若い女性が多いので、ある意味華やかな職場です。
(私は若い女性があまり得意ではなかったので、気を使いすぎて自爆的に疲れていました。)

良い点は、業務が個人商店的なので、自身で仕事をコントロールできることです。他のメンバーが残っているので帰りづらい…といったことは少ないです。
また、業務に関係の無い人とはあまり関わらなくてよいので、気疲れすることは少ないです。

悪い点は、常に出願書類や応答書類等の論理構成を考えなければならず、思考作業から逃げられないことです。企業勤めであれば、他にも業務が多いので、考えが滞れば他の業務に逃げることができます。
また、良い点の裏返しとはなりますが、人との関わりが少ないことも挙げられます。下手をすると、出所してから一言も人と話さない日があったりします。

以上より、論理的に物事を詰めることが好きな人や、一人で黙々と考えたり作業できる人は向いています。また、庁関係の書類作成に関して鍛錬が積めますし、その検討のために法律知識や判例等を日々学びますので、知財の代理人として職を極めたい方は特許事務所で経験を積むべきです。

一方で、人とコミュニケーションを取りながら物事を進めたいと考える人であったり、知財全般に関わりたいと考える人には不向きかもしれません。

※注:上記はあくまで一事務所員の話です。事務所経営に関わる場合は、組織のマネジメントや知財コンサル等の業務を主とされている方もいます。

一日のスケジュールイメージ

概ね書類の作成なので、スケジュールとしてはシンプルです。

  • 9:00~ 出所、メールチェック、タスクと期限確認
  • 9:30~ 拒絶理由通知に対する対応検討
        (クライアントへの応答案提示、補正書・意見書の作成等)
  • 12:00~ 昼食 都会だったので、どこも人だらけで落ち着かない。
  • 13:00~ 出願書類(主に明細書)の作成
         ※新規に依頼があった場合は、たまにクライアントとの打合せ
         質の良い書類の場合、クライアントからお褒めの言葉が。嬉しい。
  • 18~19~ 業務終了後に弁理士試験の勉強
  • 21:00 帰宅 自己研鑽による充実感も頭がパンパンで寝られないことも

企業知財部員の一日

仕事の概要と向き不向き

知財部員の業務は、調査、発明発掘、出願権利化、権利活用、契約チェック等、知財全般で多岐にわたります。

特許事務所と同様にオフィスワークが中心ではありますが、チームメンバー、研究者、事業部担当や複数の特許事務所の弁理士との打合せが多く、コミュニケーション能力や調整能力が求められます。

業務上で関係する人が多いので、少なからず他の方との兼ね合いで仕事量やタイミングに影響がある場合があります。一方で、チームワークを強く求められる研究開発部署と比べて自身でコントロールできることは多いので、特許事務所と同様にある程度自分のスケジュールで仕事ができます

特許書類の作成や法律的な検討は、特許事務所にアウトソースできますので、出願書類の作成ノウハウや法律的な知識に必ずしも詳しくなくとも業務上問題となることは少ないです。もちろん知っていた方が関係部署からの信頼は強まりますし、中堅/ベテランクラスは詳しく知っておかなければなりませんが。

良い点/悪い点は、特許事務所との裏返しとはなりますが、以下のようなところです。

良い点:知財全般を広く学ぶことができることです。特許事務所にいると視野狭窄になってしまうことも多いので、特に若いうちに全体を俯瞰できる企業知財部の経験を積んでおくことは有用であると思います。特に、特許調査や渉外業務等は企業でしか経験できないものもあります。
また、関係各所とのコミュニケーションが多いので、幾分かストレスが緩和できることです(逆にストレスになる場合もありますが)。

悪い点:良い点とは逆になりますが、知財全般に対応しなければならないことが多いので、一分野に特化して研鑽を積むことが難しいです。
また、関係各所との調整に手を焼かれることも多いです。特に、発明をどのような形で出願するかについては、研究側とモメることも多いです。研究方針や発明者自身の指向が、必ずしも特許出願として適正な内容とは限らないためです。この辺は、知財部でなくとも、(特に大企業では)関係部署の利害衝突と調整があるので同じかもしれません。

一日のスケジュールイメージ

上記の通り企業知財部員の業務は多岐に渡りますが、最も割合の高い出願権利化業務を行う一日のスケジュールを示します。

  • 9:00~ 出社、メールチェック、タスクと期限確認
  • 9:30~ 拒絶理由通知に対する対応検討
        (特許事務所からの応答案確認、応答依頼等)
  • 10:30~ 研究との打合せの事前検討
        (発明内容の把握/整理、先行文献の確認等)
  • 11:00~ 研究との発明発掘打合せ
        (発明をどのようにクレーム化するか、出願納期、国等の検討)
         発明を言語化するのはパズルみたいで面白い。
  • 12:00~ 昼食 社食があるので安い。
  • 13:00~ 出願書類、応答書類の確認
         (特許事務所からの案文チェック)
  • 15:00~ 特許事務所との打合せ(リモート会議)
         色んな事務所の弁理士先生と関われる。
  • 17:00~ 当日受領した庁書類のチェック、タスク管理
  • 19:00 帰宅

さいごに

特許事務所員と企業知財部員の業務イメージを書きました。
エキスパートとして狭く深く道を極めるのか、それともジェネラリストとして広く浅く全般に関わるのか。

それぞれに一長一短はありますが、いずれがよいかは一概には言えず、その是非は個人の特性に依ります。
知財に関わるにあたって、自身が目指すべきものは何かを常に自問自答しながら、その職を選択すべきです。

一方で、知財に関係する法律知識や広範な技術の学習、そのアップデートが必要なことや、どのように先行文献の鼻を明かしてやろうかと書類(情報)と向き合うのがメインであることは共通しています。この観点から、特許事務所員でも、企業知財部員でも、共通して必要な素質があります。
言い換えれば、知財を生業とする人間としての素質、特性ということですが、

勉強好きだが、細かく、ひねくれていて、一匹狼的で、パズルゲームが好きなこと

です。(私見ですので、ご了承ください)

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